空母いぶき

『空母いぶき』第一巻【自衛隊と憲法9条】

空母いぶき第一巻

かわぐちかいじ作の「空母いぶき」は、単純にエンターテイメントとして読んでも十分に楽しめますが、日本の防衛や近隣諸国との関係を考える上でも、とても参考になる優れた作品です。

このブログでは「空母いぶき」を読みながら、日本の防衛や日本国憲法の問題等についても考えて行きたいと思います。

今回はその第一巻をご紹介する内容となります。

『空母いぶき』第一巻は、嵐の前の静けさから始まる

『空母いぶき』全13巻は、第63回小学館漫画賞一般向け部門を受賞したのも当然と頷ける、極めて面白い作品です。

が、全体の面白さから比べると、第一巻は若干退屈に感じられます。
なぜなら殆ど最後まで「戦闘」が始まらないからです。
なんといっても自衛隊と中国人民解放軍とのリアルなバトルがウリの本作品ですから、第一巻は最後の数ページを除いて「スパイス抜きのカレー」みたいなものに感じられてしまいます。

とはいえ、この第一巻を読まないとこの物語の背景が判らなくなってしまうし、これほど面白い作品を第二巻から読み始める訳にもいかないので、後々の「激オモシロ」なストーリーの展開を楽しみに、じっくり読んでみて下さい。

新波二等海佐のセリフに隠された日本国憲法の問題点

この記事では、つい読み飛ばしてしまいそうな「大切な部分」についてご紹介します。

「おかげさまで、わが海自は発足以来60年、戦争はおろか一人の外国兵も殺傷せずやってこれました。それが誇りです。」出典:『空母いぶき』第一巻 P.35 新波歳也・二等海佐(当時)

日本には、日本国憲法を平和憲法と絶対視し、一言一句変える事無く大切に守っていかねばならないと考える人(護憲派)と、日本国憲法には瑕疵(かし=欠点)があり、その部分を修正するか、全体を新たに作り直す必要があると考える人(改憲派)がいます。

日本国憲法の中でも特に9条が、議論の的となっていますので、以下に引用してみます。

1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

(日本国憲法、第9条全文)

「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

という文章は、誰がどう読んでも「いかなる戦力も保持しない」という事になります。
戦後の長きに亘って「自衛隊は違憲だ!」という主張がなされてきましたが、この憲法9条をみる限りは、自衛隊の違憲性は正しい主張に思えます。

しかし「国家として自衛権があるのは憲法でも否定されている訳ではないから、防衛の為の必要最小限の武力、すなわち自衛隊は違憲ではない。」という「一種の理屈」又は「憲法の解釈」によって自衛隊の正統性が、一応は維持されてきました。

なぜ、憲法で完全否定されている「戦力の保持」「戦力の発動」が、ごちゃごちゃ言い訳がましい「理屈」を用いて、ようやく「可能!」と解釈されているかと言うと、憲法というのは「国家の根本となる法」であるかから、軽々には修正できないよう厳しい諸条件が定められている為に、改憲のハードルが過度なまでに高く、その為やむを得ず「急場しのぎ」の屁理屈がまかり通っているのです。

日本国憲法は、なぜ日本を守る事について一切述べていないのか?

日本国憲法には、どうやって日本の領土や国民を守るか?という事について、一切述べられていません。
(画像は海上自衛隊HPより引用)

というか、上記9条の引用で示した通り

「外国に攻め込まれても、一切の抵抗は致しません。」

と書いてあるに等しいのです。

日本以外の国が全て「他国の侵略など想像もできない」といった正義感に満ちた国ばかりであれば、現行憲法でも特に問題は無いかも知れませんが、現実は違います。

そもそも新波二等海佐は、先の大戦以来日本がずっと平和であり続けてきたように考えておられる様子ですが、北朝鮮による日本人拉致被害者は、政府に認定された人だけで17名、名前も特定できていない方々も合わせると100名以上と推定されています。
これほど多数の日本国民が拉致され、現在も拘束され続けている事実を、どうお考えなのでしょうか?

もし日本国憲法に自国民を守る条項が記載されておれば、被害者返還交渉においても、日本の軍事力を背景とした議論が可能だったはずです。

拉致問題と憲法

軍事力を実際に行使するしないは別として、その可能性も視野に入れた上で交渉を行う事が、現在の外交において完全に世界の常識となっています。
特に日本人拉致問題のような行為を行っている国に対しては、単に議論するだけで相手の譲歩を引き出せるはずが無いのですが、自国民を守らない日本国憲法の下では、せいぜい経済圧力をかけるくらいしか対抗策がありません。

2018年、北朝鮮に拉致されていたアメリカ人3人が解放され米国に帰国しました。
トランプ氏が金正恩書記長との会談で解放を迫った結果ですが、米国ほどの軍事力を背景にすれば、いとも簡単に解放させる事ができるという事例です。
しかし、アメリカどころか、日本よりもずっと小国であっても、毅然とした態度で抗議する事で極めて短期間で奪還に成功した事例があります。

1970年代にレバノン人女性4人が北朝鮮に拉致されましたが、この事実を知ったレバノン国民が怒り、その世論の力で政府も動き、強く北朝鮮に抗議しただけでなく「返還に応じないのなら、武力行使も辞さない。」と北に圧力をかけました。すると北はたちまち折れて、その年のうちに拉致したレバノン人女性全員を解放しています。

一方、日本政府は口で抗議するだけである事を北朝鮮に見切られ、何十年交渉しても進展がありません。
唯一、小泉首相が北朝鮮を訪問し、5人の拉致被害者が帰国した事例がありますが、この裏では莫大な身代金が支払われたとされ(払っていないという説もアリ)、しかも5人の帰国は一時的なもので、すぐに北朝鮮に返す約束までしていたとの事です。

しかし、当時官房長官だった安倍晋三氏が北に戻す事に強く反対し、その結果5人の拉致被害者が北に戻る事はありませんでした。
ところがこの時、外務省は北との約束を守るよう主張し、マスコミも「約束を破れば、北がミサイルを撃ってくるかもしれない。」といった主旨の報道を行ったとの事です。

更には、もし日本国民がもっと真剣に、我が事のように、この拉致問題を受け止める事が出来ておれば「専守防衛」の現行憲法下であってさえも、日本国民救出の名目で自衛隊の派遣を交渉の俎上に載せる事ができたはずであり、もしこれが実現できておれば、拉致問題の現状も変わっていたに違いありません。

そうした事実を忘れて、

「戦争はおろか一人の外国兵も殺傷せずやってこれました。それが誇りです。」

な~んて格好付けて、呑気な事言ってもらっては困ります。

「あなたの親や子が外国に拉致されていても、同じ事が言えますか?」

って事です。

そんな異常な状態にある日本が、他国から軍事的侵略行為を受けた場合、自衛隊はいかにして日本を守るのでしょう?(画像は陸上自衛隊HPより引用)

この複雑な命題を日本が抱えているからこそ「空母いぶき」は、単なる戦争を題材にした漫画にとどまらぬ面白さを持っていると言えるでしょう。

遂に日本の自衛隊と中国の人民解放軍がが戦闘開始

約200ページあるコミック第一巻の最後の10ページほどで、遂に中国人民解放軍が与那国と宮古の自衛隊レーダーサイトにミサイルを発射し、緊張が一気に高まります。
第二巻をお楽しみに。